妊娠中に歯や歯肉にトラブルがあると非常に不安があると思います。今はそのままにしておいて出産後に治療を始めようと思っているかたもいらっしゃるとおもいますが、トラブルをそのままにして悪化させてしまうと胎児や生まれてきたお子さんにも悪い影響を与える可能性があります。もちろん、妊娠中に避けたほうがよい治療・投与しないほうがよい薬剤はありますので参考にしていただけたらと思います。一般に妊娠中の外来刺激に対する影響の受け方から妊娠期間を次の4段階に分けています。

妊娠時期の影響

超初期:最終月経開始日(0週0日)~受精2週目
この時期は無影響期と呼ばれ、薬やレントゲン等で赤ちゃんに影響を与えることはありません。
これをall or none(全か無か)の法則と呼びます。
しかし、これは外来刺激の影響が全くないことを意味しているのではありません。影響があるとすれば着床できない(流産してしまう)か、あるいは完全に回復して、後遺症を残さないことを意味しています。

初期:受精2週間後(妊娠4週0日)~妊娠4ヶ月の終わりまで
この時期は、赤ちゃんの形がつくられるので、奇形に関して最も心配な時期です。特に2ヶ月目が敏感なのでこの時期の薬の服用やレントゲンの撮影は慎重にする必要があります。

中期:妊娠5ヶ月~7ヶ月の終わりまで
初期を過ぎると奇形の心配はほとんどなくなりますが胎児は胎盤によって安定した状態になります。 一般的に妊娠中のどの時期であっても通常の歯科治療を受けることは可能であると されていますが、出来れば胎児や妊婦への影響を考えて、比較的安定している 妊娠中期(4~7ヵ月)での歯科治療が望ましいでしょう。

後期から末期:妊娠8ヶ月から出産まで
赤ちゃんの発育や環境に悪い影響を及ぼす胎児毒性が問題となってきます。 解熱剤や消炎鎮痛剤の中には、妊娠後期に禁止されるものがあります。治療椅子を倒しすぎると仰臥位低血圧症候群が発生する可能性があります。お母さんは意識レベルが低下し、気分が悪くなりひどいと気絶します。 胎児の心拍数も急激に低下します。お母さんも赤ちゃんも苦しくなるわけですね。 あまり長時間この状態が続くと、胎児が低酸素状態となり改善が難しくなります。

妊娠中に比較的安全に投与できる薬は

化膿止めとしてよく処方される抗菌薬(抗生物質)の中には、ペニシリン系(パセトシン、ペングット)、セフェム系(セフゾン、フロモックス)、マクロライド系(クラリスロマイシン、ジスロマック)があります。これらは、妊娠時に比較的安全に使用できると考えられています。

また、同じように多用される解熱鎮痛薬では、カロナール(アセトアミノフェン)がお腹の赤ちゃんへの影響も報告されておらず、安全だとされています。
しかし、カロナールには抗炎症作用が少なく解熱鎮痛作用も比較的弱い薬剤です。

歯科レントゲン検査による胎児への影響は

診断にはレントゲン検査は大変有効な手段です。しかし同時に、その安全性について漠然とした不安を隠しきれません。特に妊娠中の被爆は注意が必要です。レントゲン撮影時には、鉛エプロンで防護しデジタル撮影することにより必要最小限の被爆にとどめます。

歯科用レントゲンによる、母体および赤ちゃんへの影響は一度に1000枚以上撮影しない限りないといわれています。

納得していただいた上で必要最小限の撮影を行いますので遠慮なくご相談ください。

局所麻酔剤の母体への影響

妊娠中の歯科治療における麻酔使用については通常の麻酔量(カートリッジ1~2本程度)であれば、お腹の赤ちゃんに対して心配はありません。
ただ妊娠8ヶ月以降は早産の可能性があるので、歯科医に相談して下さい。
局所麻酔薬として最も多く使用されているのはリドカイン(キシロカイン)ですが、これは医科においても頻繁に用いられ産婦人科でも無痛分娩や妊婦の会陰部の病変を切除する際にも使用されています。
これらの使用量に比較して通常の歯科治療で使用される量ははるかに少なく、母体や赤ちゃんへの影響は少ないと考えられています。

痛みを我慢しながら治療を受けていただくより、痛みを早く取り去って快適な日常生活を送っていただくことのほうが母体やお腹の赤ちゃんにとって大切ではないでしょうか。