歯科医院では、お口の中を詳細に診断するために、色々な種類のレントゲンが使用されています。レントゲンを使用するたびに、微量の放射線を浴びていますが、これらが人体に影響及ぼすことはないのか心配ではないかと思います。

「放射線」は、光の仲間です。放射線を出す能力を「放射能」といい、放射線を出す物質を「放射性物質」といいます。放射線は種類によって性質も異なります。医療現場で診断に使われるレントゲン撮影や、CTスキャンなどのX線、また原子力発電所で生まれる「人工放射線」については、国際放射線防護委員会(ICRP)によって、人体への影響を及ぼさない放射線量の目標値が勧告されており、日本もこれを受けて法律で定めています。

放射線とX線はどう違うのか

では、原発事故で問題になっている放射線とX線は同じものなのか?

1895年、レントゲン博士が写真のフィルムを感光させる性質を持った線、目に見えない線を発見し、当時は正体が分からなかったので、なぞの線ということでX(エックス)線と命名したのです。

このX線は普通の光よりも物体の中を通り抜ける力が強いのですが、人間の体に当たったときには骨や筋肉に当りさまざまな程度に弱まる性質を利用して体の内部構造をフィルムに写すのがX線写真の原理です。

エックス線発見の3年後、1898年にキュリー夫妻が放射線を出す物質ラジウムを発見しました。つまり放射能を持つ放射性物質です。ラジウムが出す放射線はガンマ線といって、X線とは違います。両者は似ている部分もありますが、根本的に違うのは発生の仕方です。

X線発生装置には放射性物質が入っているわけではありません。撮影装置自体はまったく危険のない、ただの機械です。

では、放射線であるX線はどこから出ているのでしょうか。

近年は最新式の機械が次々と出ていますが、基本的には真空のガラス管の中で人工的に高速の電子を金属にぶつけることで瞬間的にX線を発生させています。

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その一方ガンマ線を含めて原発事故で問題になっている放射線は放射性物質から出ています。放射性物質は岩石のような物質で、取り扱っている施設で爆発や事故があれば細かい塵のようになってまき散らされます。これが放射能漏れの正体です。

この塵は空中や地面、建物の表面で放射線を出し続けます。もし吸い込んだり、飲み込んだりするとこの物質が体内から出ていくまで、または何年、時には何十年かけて崩壊(分解)して放射能を失うまで体内で放射線を出し続けることになります。

このように、歯科医院で使うX線と原発事故で問題となっている放射線は同じ放射線の仲間でも人体に影響を与える形が全く違います。

歯科用レントゲンの放射線量

歯科で主に使用されるレントゲンは、下記の三種類であり、それぞれの放射線量は胸部や胃のX線検査で浴びる放射線量よりも少ない値です。

  • 全顎総覧撮影用X線装置「パノラマ」・・・0.03mSv(1回)
  • 口内法撮影用X線装置「デンタル」・・・0.01mSv(ミリシーベルト)
  • コーンビームCT「歯科用CT」・・・0.1mSv(1回)

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【放射線で使用される単位について】
「Sv」(シーベルト)
放射線量の人体への影響(被ばく線量)を表す単位のことをいいます。放射線を受けることを「被ばく」といい、受けた放射線の量を「被ばく線量」といいます。 
「ベクレル」(Bq) 
「放射能」を表す単位のことをいいます。

 歯科レントゲンによる体への影響について

放射線影響は2種類に区分され、それらは皮膚の紅斑や臓器障害等の組織影響に見られる「確定的影響」と、ガンや遺伝的影響とされる「確率的影響」と呼ばれています。

第一に、身体の組織・器官に確定的影響が発生するには、その被ばくが急性的であり、対象となる組織・器官への被ばく線量が閾(しきい)値(症状によって異なるが、各組織・器官に対し吸収線量で数百~数千Gy)を超えていることが必要です。組織・器官への集中的な被ばくによってその組織の大部分が破壊されることにより、閾値を超えた組織・器官に確定的影響がもたらされますが、今般の事故による被ばくでは閾値となる線量に達することは到底あり得ないこと、また慢性的な低線量被ばくでは、生物の有する修復機能の働きもあり修復されることから、確定的影響が発生することはないことが言えます。

第二に、ガンに関する確率的影響の発生に関して、前述した確定的影響のような閾値はなく、被ばく線量に比例して直線的に増加することが国際的に仮定(閾値なし直線仮説;LNT仮説)され、それが科学的にもっともらしいとされています。被ばく線量が高い場合は有意に放射線の影響が見られることから、致死がん確率係数が1 Svで約5%と(1Svで発生確率が約5%増加)国際的にも認識されています。一方、100mSv程度のような少ない線量では、確率的影響が放射線で発生したかどうか分からない程に低いものになります。世界の地域によっては、年間数十mSvの被ばくをする地域も実在しますが、そのような地域においてですら、有意な健康影響は見られていないようです。

少ない被ばく線量で確率的影響の程度が分からないという意味は、その他の外的因子(例えば、紫外線や、たばこ、ガソリンエンジンの排ガス、食品等に含まれる化学物質等の様々な発がん性物質)の影響が支配的であり、区別できない程度であるということです。その他の外的因子に起因すると考えられるガンによる死亡割合は約30%でと言われてます。

歯科レントゲンで受ける一時的で少量の被ばくについては、自然放射線から受ける線量のレベルを目安にすると理解が得られやすいように思います。自然放射線からの被ばくの世界平均は、年間2.4mSvです。自然放射線からの人体影響を、我々は普段気にすることはございませんが、そのレベルの数値が一時的に少し増加したとしても、人体への影響が極端に増すことはなく、将来的に影響を及ぼす数値かどうかもわからないような低いレベルです。
むしろ、不安がストレスとなって、放射線とは関係のないところで体調をくずしてしまう可能性もあると思います。